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もう二人の松田優作

侍・松田優作

ヒーローかヒールか。松田優作にはそのどちらかの役柄が多い中で、本作では「臆病者で腰抜けの侍」という珍しい役柄を演じている。
犬が苦手で超臆病者の双子六兵衛(松田優作)は、妹(五十嵐淳子)からも、兄がしっかりしていないので嫁にも行き手がないと愚痴られる毎日。そんなある日、六兵衛の奉公する福井藩で、仁藤昂軒(丹波哲郎)を上意討ちするという話がもちあがるが、仁藤は剣の達人であるため誰も手を挙げない。六兵衛は、男をあげるチャンスとばかりに名乗りをあげ、独特の方法で仁藤を追いつめてゆく。
優作は、犬にびびり、妹になじられながらも「世の中にはこういう役回りの人間も必要なはずだ」とどこか達観し、なんとか目的を果たそうとする貪欲な侍を好演。丹波哲郎の重厚な演技とのコントラストが作品に深みを与えている。前述したように、どうしてもハードボイルドなイメージが強い優作が、臆病者・卑怯者・狂人・優しい兄・道化・男らしさ・可愛さをうまく演じ分けており、「いろんな松田優作」を楽しめる幕の内弁当のような作品である。やや違うが、名作テレビドラマ「探偵物語」(1979年)の、コミカルだが芯は男らしく仲間に優しい探偵・工藤俊作に近いかも知れない。優作ファンがみていて痛快なのは、当初の、汗だくで震えまくりのへたれ侍が、ラストでは誰もが知る松田優作(つまり「蘇える金狼」の朝倉哲也、「遊戯シリーズ」の鳴海昌平)の鋭い眼光、落ち着いた野太い台詞回しに変貌してゆく様だろう。優作はコメディの"間"の取り方を熟知しながらハードボイルドも演じられることから、この作品でも観客を海面すれすれから深海まで一気に連れて行ってくれる。
原作は山本周五郎。『木枯し紋次郎』の大洲斉が監督をつとめている。ちなみにコント55号主演「初笑いびっくり武士道」(1972年、松竹)のリメイク(六兵衛を萩本欽一、仁藤を坂上二郎が演じた)作品である。優作の数少ない時代劇出演作でもある。

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入魂・松田優作

大量の広告で原作と映画のメディアミックスを成功させた『犬神家の一族』(1976年)から一年。時代の風雲児となった角川書店は、映画製作第二弾として森村誠一原作の『人間の証明』を映画化した。
ファッションデザイナー八杉恭子(岡田茉莉子)のショーが終わった会場のエレベーターで一人の黒人男性ジョニー・ヘイワード(ジョー山中)が腹部を刺された状態で倒れ死亡する。「ストウハ」という謎の言葉と西条八十の詩集を残し・・・。同日、別な場所で車による轢殺事件が発生。捜査に乗り出した警視庁の棟居(松田優作)とベテラン刑事の横渡(ハナ肇)のコンビは二つの事件にあるつながりを見つけていく…。
優作は、黒人男性の過去を追って渡米する寡黙な棟居刑事を好演。他に鶴田浩二、岩城洸一、三船敏郎、ジョージケネディなど豪華キャストが出演しているが、優作は存在感のある演技で見事に主役をこなし、作品を一級のエンターテインメントたらしめている。撮影中、スケジュール調整でもめた俳優仲間を庇いNYのコーディネータを殴ったりと、オフでも武勇伝を残している。また、公開当時、ジョー山中の歌う主題歌と、「母さん、僕のあの帽子どうしたでしょうね」という西条八十の詩の一節が大量にCMでオンエアされ一世を風靡したが、この詩を象徴する美しいラストシーンを撮影するため、スタッフ・キャストは一週間連続で早朝登山したという。優作は監督の佐藤純彌に「脚本には無いが、ラストに母親に対する思いを言いたい」と直談判。佐藤は、当初これを断るが優作の強い主張に、台詞ありと無しの2バージョンの撮影を了承。一瞬の霧の晴れ間をついて撮影されたクライマックスで麦藁帽子が放たれ、岡田茉莉子は投身自殺する。ここで優作はアドリブで「母親って、何なんだ・・・」とつぶやいた。優作自身、父の無い子として生まれ(2人いる兄たちとも父親は異なる)、母親に対する思いは格別であったはずである。結局この優作がこだわった台詞は本編からはカットされ、台詞を言った後の表情だけが生かされた。佐藤は「台詞を言ったあとの優作の顔が素晴らしかったので採用した。優作のアドリブは、あんなあからさまな台詞では白けるだけと思ってカットしたが、あの時は優作の背負った背景を知らなかった」と後に語っている。単なるアクションスターではないことを証明した俳優・松田優作のこだわりの秀作である。

文・Master JOKER


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奇跡の傑作を生んだ直感型の映画作り! 三池崇史(後編)

2009.3.13更新

 

 

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